2021年10月18日
30号作品の紹介
今回の展覧会では、それぞれの最大30号サイズの作品を展示しています。
その作品をご紹介します。
安冨さんの30号スクエア作品「Loophole」
「Loophole」の作品の対応文は以下です。
【218段 月のいと明きに】
月のいと明き(あかき)に、川を渡れば、牛の歩むままに、水晶などのわれたるやうに水の散りたるこそ、をかしけれ。
(現代語訳)
月がとても明るい夜に牛車で、川を渡ると、牛が歩くのにつれて、まるで水晶が割れたように水しぶきが散っていく、何とも素敵だ。
Loopholeとは直訳すると、抜け穴。抜け道。逃げ道等々です。
また壁などにあけた小穴、 通風・採光に合わせて使われることもあるようですね。英語の細かなニュアンスは正直なところ私は勉強不足で分かりません・・・。
しかしながら、上記の一文を選択された安冨さんの思い、また作品の印象から、私は抜け道のようなひっそりとした場所をイメージしながらも、ちょっとした小穴のような隙間から覗いた先にあった風が通る場所、またふと上から射した光の反射を合わせてイメージしました。
私は在廊中、会場で拝見していると、自分がもしこの作品の世界に入ることができるならば、ずっと隠れていたいような、秘密の場所のような・・・。そんな気持ちになりました。
次は私の30号Pサイズの作品「朝に去る色」です。
「朝に去る色」の作品の対応文は以下です。
【240段 雲は白き】
雲は白き。紫。黒きも、をかし。
風吹くをりの雨雲。明け離るるほどの、黒き雲のやうやう消えて、白うなりゆくも、いとをかし。「朝に去る色」とかや、詩(ふみ)にも作りたなる。月のいと明き面に薄き雲、あはれなり。
(現代語訳)
雲は 白いの。紫。黒い雲のもいい。風が吹く折の雨雲もいい。
夜が明けはなれるころの、黒い雲がようやく消えて、あたりが白んでゆく風情も、とてもおもしろい。「朝に去る色」とか、漢詩にも作ってあるようだ。月のとても明るい面に、薄い雲というのもしみじみとした趣がある。
これは身近な京都の風景です。下は水路が流れています。ずっと描きたいと思っていた場所の一つです。ふとした時に見つけ、何度も訪れました。
まず、この作品は「描きたい場所」があったのですが、作品にしていく過程では枕草子の一文、特に「朝に去る色」という表現に惹かれ、何とか絵にしたいと思いました。夜明けのことを「朝に去る色」と表現した清少納言の言葉の巧みさ。
私は単純に「なんて豊かな日本語表現だろう!」と思いました。
「黒い雲」を絵の中に込めるために、水面にしっかりと深い青や濃い色を置き、表現しようと試みた作品です。
この2点は以下のように展示しています。